オペラが独学で学習できる時代に




インターネットが普及し、知識の集積は大学という限られた空間ではなく、インターネット上の仮想空間の中を中心として行われるようになってきている。この20年ほどのそのような傾向を決定づけるような動画が、2013年にyoutubeにアップロードされた。




"Holland's got talent 2013 - Amira Willighagen - O mio babbino caro - Nine years old, a Miracle" と名付けられたその動画は、オランダの "Got Talent auditions" というテレビ番組に出演した驚くべき歌唱力を持つ9歳の少女のパフォーマンスの動画であった。

歌の上手い9歳、ということであれば、おそらく世界各地にたくさん存在する。しかし、この少女の特筆するべきところは、その歌唱力をプロの先生に習うことなく、すべてyoutubeでの独学で身につけた、というところにある。

私は美大受験の先生として随分と長く仕事をしているのだが、近年、「大学」というものの存在価値自体が大きく見直されるべきときに来ていると実感している。

教育とは伝統的に、どのような分野のものであったとしても、その分野において豊富な知識やデータを集めている「学校(あるいは先生)」から生徒が教わることにより、より効率よく学習効果を上げるというやり方をとってきた。

これは、自分の目指す分野において何をどのようにしたら知識を深めていくことができるのかというノウハウや知識の所在自体が不明だった時代からの名残である。

大学、あるいは研究者は専門分野に関する知識の集積と研究に特化し、その他の分野についての研鑽をある程度切り捨てることによって存在意義を確立し、それを後の世代に伝えるという社会的意義を実現させることで、そのステータスを保ってきた。

しかし、今や大学は知識の集積の中心地とはいえない。知識が集積するのは大学という「場」ではなく、インターネット上の仮想空間に集中しているのである。

その情報量は膨大だ。今までに注目されてこなかったような分野も含めて、ほとんどあらゆる分野に関する情報がインターネット上では簡単に手に入る。……正確には、インターネット上での検索能力が高い者にとっては、ということになるが。

私の見たところ、今の若年層の大半はこのインターネット上での検索能力が著しく低い。特に、インターネットの接続をスマホをメインにして行なっているタイプは、非常に検索能力が低いように思う。

しかし、この9歳の少女のように、インターネット上の情報をうまく活用することができれば、専門家を驚愕させるような力を手に入れることも可能なのである。重要なのは、その力の源は基本的にあらゆる人間に対して解放されているという事実である。

学習効果についての本質は割と単純だ。

「埋もれる」

それができれば、大きく実力は向上する。そして、インターネットという「ツール」は、その「埋もれる」状態を簡単に作り出せてしまえるものなのである。

格差社会は、社会・経済だけのものではない。私は日々美大受験生を指導する中で、「個性の格差」を目の当たりにしている。そして、そこに大きく問題意識を持ち「エースアートアカデミー」という形で、今までにはない全く新しい形の美大受験指導塾を運営している。

私が現代の若者に対してできる最大のアドバイスは、「好きなものに埋もれなさい」ということだ。

今「大人」になってしまっている世代の多くは、このように自由な世界での知識の集積に関わってこなかった世代の人間である。だから、「好きなものに埋もれる」ということの価値を分からずに、若い世代に現代にふさわしくないノウハウを押し付けることもある。

しかし現代は、スキルを伸ばすのも「自由」だが、堕落するのも「自由」な世界だ。これはまさに、数多くの生命体の原点である「弱肉強食」の世界なのである。

だからこそ、自分が何をやるかを考え、「埋もれる」ようにしてどんどん何かをやってみれば良い。それが、新しい時代で生き抜く強さを育て上げていくはずだ。