レゴブロックは、誰もが知っているクリエイティブな「子供のおもちゃ」である。
世界中にファンは多い。「子供のおもちゃ」と書いたが、大人がレゴブロックを使って様々なものを制作し、世界各地で様々なイベントが実施されている。
2012年にアップロードされたレゴブロックを使用して家の中にただ単に「ボールを運ぶだけの循環工場」を作り上げてしまったその様子は、圧巻だ。「LEGO Great Ball Contraption (GBC) Layout 2012.9」というタイトルの動画である。
私が子供の頃とは異なり、ただ単に「数多くあるたくさんの直方体」ではない現代のレゴブロックには非常に多様なパーツが存在しているようだ。
この動画の作者は、非常にクリエイティブな発想力を発揮し、ただ単にボールを運ぶためだけに実に様々なシステムをレゴブロックで構築してしまっている。回す、溜める、滑らせる、飛ばす……よくぞここまで多くの「運び方」を考えたものである。
制作者のブログには、この動画のアップロード後も様々に制作されたレゴブロックによる循環・動作システムがアップロードされているが、それはどれも1つのシステムを構築したものだ。
この動画がアップロードされた2019年9月にはこの動画についても言及がなされており、どうやらこれは、2012年時点でその2年間の集大成として制作したシステムを結合させて作ったものらしい。
しかしこの、別々に制作したシステムを1つの有機的なシステムとして結合させるというのは、非常に難しいことなのである。美大受験生は、これを例えば石膏デッサンや自画像を描く時に体験する。
目だけを描く、鼻だけを描く、口だけを描く、それらを結合する……そしてそれは、たいてい「違和感のある顔」にしかならないのである。「全体」についての把握が意識されていなければ、中々上手くはまとまらないのだ。
実際、2011年2月の初期の頃の記事では、「レゴのレゴ選別マシン その1 」として、「目標ははレゴの全部品を仕分けることです」との言及がある。
何かを制作する時に、「目標」はとても大きな成長の効果をもたらす。そして、その「目標」は遠ければ遠いほど、現在の自分に大きな推進力をもたらす。
「今日中に隣の家へ行け」と命令されれば、たいして急ぎも焦りもせず、ゆっくりと隣の家へ行くだろう。慌てなくても、隣の家は無くなったりしないし、用事も数分で済ますことができるからだ。家でゆっくりと時間を過ごし、思い立った時にちょっと命令を実行すれば十分だ。
しかし、「今日中にニューヨークのタイムズ・スクエアで写真を撮ってこい」と命令されたら、焦って最速でニューヨークに到着する飛行機の便を探し、急いで出かけていくに違いない。
現在の自分の状況を把握し、目的地までの遠さを考える。そしてそこから、到達するまでの可能性を算出する。急がなければ、間に合わない。だから急ぐ。急げば間に合うかもしれない。その気持ちが推進力をもたらすのだ。
私の元には、様々な美大受験生がやってくる。年齢も実力も様々だが、合格する受験生に共通しているのは、「遠くを見る受験生は合格しやすい」ということだ。
受験学年の年度始めに申し込んでくる、というのも「遠くを見る」ことの一つだが、それ以上に、「大学を通過点」と捉えていることが実力の向上に非常に大切な要素なのだ。
レゴブロックは、たいていの人間が入手可能なお手軽なアイテムだ。しかし、それを遥か遠い目標のために明確なコンセプトを持って活用すれば、他の誰もが実現できないような素晴らしいものを作り出すことができる。
レゴブロックはただのおもちゃだが、レゴブロックをただのおもちゃではない使い方をすることはできる。
パーツを組み替えることで多様な需要に応えることのできる可能性は、現代のものづくりの一つの潮流をなしている。Project Ara 然り、火星の友人基地デザインコンペの受賞作品然りである。
レゴブロックで循環工場を制作したこのクリエイティビティは、エンターテイメントと趣味以上の何かを生み出す大きな可能性を秘めている。