集合知で見切れなかったもの




車の自動運転が注目され始めている。Google の開発しているものが最も有名なもののように思えるが、日本の自動車メーカーも各社開発を始めているようである。

2015年12月末、その車の自動運転に関して、非常に驚くべき報道がブルームバーグよりなされた。ある一人のハッカーが、自動運転の技術をたった一人で開発したというのである。




ハッカーの年齢は26歳。ジョージ・ホッツ(George Hotz)氏はGeohotという名前でも知られ、17歳の時にiphoneの脱獄(ジェイルブレイク)に個人としては世界で初めて成功。19歳の時には、プレイステーションの脱獄に成功し、この時はソニーから提訴されたという経歴を持つ。

Geohot は、Googleが何年にもわたって開発してきた自動運転の技術を、自宅のガレージで、しかも開発期間はたったの1ヶ月で作り上げてしまったという。しかも、装置自体の開発費は2万ドル(二百数十万円)と、信じられないくらいの安上がりなのである。

さらに、Googleの自動運転技術が数十万行にも及ぶプログラムコードで構成されているのに対し、Geohot 氏のコードはたった2000行で構成されていて、人工知能による学習機能によってどんどん運転技術を学んでいくという。

この自動運転装置はすでに自動車に搭載され、公道を走り、Geohot 氏の車の運転から運転技術を学習中だとのことである。

私は大学受験産業に関わっているのだが、このRGB-Y.comで書いてきているように、この先、大学のあり方や教育のあり方は大きく変わらざるをえないように感じている。

なぜなら、この数十年間の教育機関は、突出した能力がある個人の能力を伸ばすためではなく、「平均的な人間」が「最大公約数の教養」を得るための場としての機能が中心となってしまっているように思うからである。

特に、日本はその傾向があまりにも顕著である。大学全入時代と言われて久しく、もはや大学は「最高学府」の名には全くふさわしくない場となってしまっている。さらに、高校に通うこと自体を無駄だと考える才能ある人材も出てきてしまっているくらいだ。

私は、現在の入試のやり方では突出した能力がある人間を見出すことはできないと考えている。つまり、「突出した能力がある天才」は、大勢の人間に当てはまるような最大公約数のやり方からは常に外れるような人間だからなのである。

Googleは世界的に有名な企業だ。そして、集合知によるデータの集積により、21世紀の世界に大きく影響を与え、そして与えようとしている。車の自動運転もその1つの側面である。

しかし、その集合知から漏れ、しかも突出しているものの存在を、果たしてGoogleはカバー仕切れているのだろうか?

Geohot 氏は、そういった「集合知から漏れ、突出した能力がある天才」の一人だ。Geohot 氏に見え、そして、他の圧倒的大多数の人間には見えていなかったものがあるのは明らだ。iphoneの脱獄、プレイステーションの脱獄、安価な自動運転装置、それらは、Geohot 氏だけに見えていたものを実証・公開したり、造形化したものなのである。

知は力なり」。少なくとも、前世紀までで求められていた「知」は「集合知」であったように思う。しかし、「集合知」では扱いきれないものが、少しずつ見え始めている。最大公約数の人間には見えないものが存在するのが、どんどん明らかになってきているのだ。

インターネットの普及によって集合知が急激に膨らみつつある今の時代だ。しかし、大きく膨らみ張り詰めた風船は、たった1本の針によって容易に弾け、終わってしまう。

たった一本の針……つまり、あまりにも小さな存在こそが、進みゆく今の時代を終わらせ、次の時代へと導くきっかけとなるかもしれないのである。