V-sido OS は電気羊を制御するか





2011年、ある一個人が、非常に興味深い動画をYoutubeにアップロードした。

赤い彗星のMSを市販機ベースでつくってみた」というタイトルのその動画、出だしは単なるガンダムファンが市販のおもちゃロボットにズゴックの外装を着せてみた、というだけのように思える動画である。




しかし、この動画の素晴らしさは、そこに止まらなかった。この動画の作成者は、市販のロボットにガンダムのモビルスーツの外装をかぶせるだけでなく、独自に開発したOS(オペレーティング・システム)によって、そのロボットを操作することを試みたのである。

結果、ズゴックの外装を被った市販のロボット機体は、ペンでのタッチパネル操作によって思うままに手足を動かせる仕様となったのである。

しかし、ロボットの手足を動かしている最中に、この動画の作者は重大なことに気づいた。

足を動かそうとした時、ロボットは重心を失い……倒れてしまったのである。

普通ならば、ここで妥協し、手のみを動かすことができた、というだけでも満足してしまうだろう。しかし、この人物は違った。物理演算エンジンを連携させ、ロボットが自動で重心をとるシステムを組み上げてしまったのである。

これで、ロボットは足も含めて自由に動かせるようになった。片足立ちのような、人間ですら転倒してしまうような無理な体勢でのバランス取りもしっかりとキマっている。

さらに作者は、ただ足を動かす、歩行させるだけでは飽き足らず、ズゴックに「ガニ股」での歩行をさせようとしたり、操作者の頭の動きをモノアイに連動させたり、有線での操作をbluetoohtで無線化したりと、思いつくままに細かな調整をどんどん重ねていった。

そして、そのOSは、「V-sido OS」と名付けられることとなった。

特筆すべきなのは、この「V-sido OS」が、作者が改造した市販機だけではなく、他のロボットにも応用を利かせることができるということだ。

二足歩行のロボットで大きな問題となるのは、バランスをとって歩くことである。アシモの最高のボケの例に習うことなく、これで、「V-sido OS」は前に進む大きな力を手に入れることになったのではないだろうか。




私の元には、様々な美大受験生がやってくる。その中には、ロボットを作りたい、キャラクターデザインしたいという若者は多い。しかしそれは、単に小学校のノートの落書きの延長線上にしかないような稚拙なモチベーションに基づくものも多い。

もちろん、それ自体は構わないのだが、実際のところ、大切なのはその先だ。発想と工夫、そしてそのための努力。それらを厭っているうちは、クリエイティブなものを作り出すことは非常に難しい。

「V-sido OS」は、間違いなく、多くのロボット研究者の役に立つ。ロボット研究の役に立つということは、大きな未来を開くためのきっかけともなる、ということだ。誰もが憧れるロボットの外面的なデザインを作るのではなく、目に見えない操作系のプログラムを開発しようとするこの動画の作者、吉崎 航氏の志はとても素晴らしい。

そして、この動画がガンダムから始まっているところは、もっと素晴らしい。

出だしはロボットアニメでも、何でも良いのだ。例え大人がバカにするようなことでも、新しく何かを作るためのきっかけとしては、どのようなものも優れている。そして、そのきっかけをクリエイティブなものに変えていくために、発想と工夫、そして努力を重ねていくことがいかに大切かを、この動画は教えてくれる。



クラタス スターターキット

V-sido 搭載。世界初の搭乗型ロボット。アマゾンで販売されているところや、その値段にも関わらずすぐに在庫なしになるところがすごい。どうやって納品されるのだろうか……